業務地図2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

人事のChatGPT活用 全体地図 — どこから始めて、何をやらないか

この記事の要点

「みんな、こっそり使ってるんですよね。会社としては何も決めてないんですけど」

ある人事責任者の方が、苦笑いしながらこう仰いました。心当たりのある方、多いのではないでしょうか。総務省の情報通信白書(令和6年版)によれば、日本で生成AIを利用している個人はまだ1割前後と、米国や中国に比べて大きく低い水準です。でも僕の体感では、人事の現場はこの平均より確実に先を行っています。求人票の下書き、面談メモの整理、お詫びメールの文面——個人がこっそり使い、会社は何も決めていない。これが2026年の人事×ChatGPTの、いちばんリアルな現在地です。

この状態の問題は、活用が遅れることではありません。一番危ない使い方から広がることです。今回は、人事業務のどこでChatGPTを使い、どこで使わないかを1枚の地図に整理します。僕が社内で使っている呼び方ですが、「距離×定型度マップ」という道具です。

0. 前提 — なぜ人事は「地図」が要るのか

営業やマーケティングのAI活用と、人事のAI活用には決定的な違いがあります。人事が扱うのは、ほぼ全部が個人情報だということです。候補者のレジュメ、従業員の評価、給与、健康情報。個人情報保護法上の扱いに注意が要るデータの塊の中で仕事をしている。だから「便利そうな順」に使い始めると、いきなり最危険地帯を歩くことになります。必要なのは禁止でも放任でもなく、どこが安全でどこが危険かの地図です。ここが今回の隠れた主役です。

1. 地図の描き方 — 2軸で4象限に切る

地図の軸は2本です。縦軸=個人情報との距離。その業務が特定個人のデータを扱うか、扱わないか。横軸=定型度。毎回ほぼ同じ型で処理できる業務か、都度判断が要る業務か。この2軸で人事業務を4象限に置くと、着手の順番が自動的に決まります。

第1象限:個人情報なし×定型——今日から使う場所。第2象限:個人情報あり×定型——ルール整備の後で使う場所。第3象限:個人情報なし×非定型——壁打ち相手として使う場所。第4象限:個人情報あり×非定型——原則、AIに渡さない場所。順に見ていきます。

2. 第1象限 — 今日から使う(個人情報なし×定型)

ここは迷わず始めてください。具体的には、求人票のドラフト(詳しくは求人票の記事に書きました)、社内規程や通達文のたたき台、研修資料の構成案、会社説明会の想定問答、採用サイトのFAQ案、労務手続きの社内向け案内文。共通点は、特定個人のデータを1文字も入れずに成立することです。

効果は地味に大きい。僕の体感値で、この種の文書作成は所要時間が半分前後になります。たとえば就業規則の改定案内。従来2時間かけていた下書きが、改定ポイントを箇条書きで渡せば30分の修正作業になる。最初の成功体験をここで作ることが、後の全展開の土台になります。いきなり高度な活用を狙わず、まず第1象限で「AIと働く筋肉」をチームに付けてください。

3. 第2象限 — ルールが先(個人情報あり×定型)

レジュメの要約、面接記録の整理、スカウトの個別化、従業員アンケートの分析。人事のAI活用で本当に旨味があるのはこの象限です。ただし、ここに入る前に決めるべきルールが3つあります。

①環境:無料版・個人アカウントは使わない。入力データが学習に使われない法人向けプラン、またはオプトアウト設定を会社として用意する。②マスキング:氏名・連絡先など、業務上AIが知る必要のない識別子は伏せて入力する運用を決める。レジュメの要約に候補者の氏名は要りません。③台帳:どの業務でAIを使っているかを一覧化しておく。何かあったとき「どこで使っていたか分からない」が最悪の状態です。

3つ決めるのに、大企業でなければ1〜2週間もあれば足ります。逆に言うと、この1〜2週間を惜しんで個人のスマホで候補者情報を入力するのが、いま日本の人事で一番起きている事故予備軍です。率直に言うと、禁止令を出すだけの会社もこれと同罪だと僕は思っています。禁止すれば、利用は消えるのではなく地下に潜るだけだからです。

4. 第3象限と第4象限 — 壁打ちと、渡さない領域

4-1. 第3象限:壁打ち相手として(個人情報なし×非定型)

採用戦略の選択肢出し、制度設計の論点整理、組織課題の仮説出し。正解のない仕事では、AIを答えの製造機ではなく、壁打ち相手として使います。「新卒採用を強化すべきか中途にシフトすべきか、それぞれの論拠を10個ずつ挙げて」「この人事制度案の穴を、従業員の立場から突いて」。出てきた答えをそのまま採用するのではなく、自分の思考の抜けを見つける鏡として使う。この使い方は今日から安全にできますし、一人で戦略を考える人事担当者にとっては、実質的に「もう一人の同僚」になります。

4-2. 第4象限:渡さない領域(個人情報あり×非定型)

採用の合否、人事評価の決定、懲戒、解雇、そしてメンタル不調の相談対応。ここはAIに判断を渡さない領域です。理由は2つ。第一に、これらは説明責任を伴う意思決定で、「AIがそう言ったので」という説明は誰に対しても成立しません(面接評価の記事で詳述しました)。第二に、労務相談のような場面で相手が求めているのは情報処理ではなく、受け止められた実感だからです。効率化してはいけない仕事が、人事には確かにあります。誤解のないように言うと、この象限でも「情報の整理」までならAIは使えます。判例や制度の調べ物、面談記録の構造化。線を引くのは「判断と伝達」の手前です。

5. 実装手順 — 地図を自社版にする90分

実務パートです。チームでやる場合、所要は90分です。ステップ1(30分):業務の書き出し。付箋でもスプレッドシートでもいいので、チームの業務を30個ほど書き出す。ステップ2(20分):4象限に配置。個人情報との距離×定型度で置いていく。判断に迷うものは安全側(右上)に寄せる。ステップ3(20分):第1象限から3つ選ぶ。今週から始める業務を3つだけ決め、担当者を付ける。ステップ4(20分):第2象限のルール3点の起案。環境・マスキング・台帳について、誰がいつまでに決めるかを割り振る。

この90分の会議は、そのまま「わが社の生成AIガイドライン」の下敷きになります。ガイドラインをゼロから書こうとして止まっている会社は多いですが、業務の地図から作れば、ルールは後から自然に言葉になります。

(結論)順番を持っている会社が、結局いちばん速い

まとめます。①人事のChatGPT活用は「個人情報との距離×定型度」の4象限で地図化する。②第1象限(個人情報なし×定型)から始め、成功体験を作る。③第2象限は環境・マスキング・台帳の3ルールが先。④第3象限は壁打ち相手、第4象限の判断と伝達は渡さない。

生成AIの波の中で、人事に求められているのは「早く使うこと」でも「慎重に禁止すること」でもなく、使う順番を持つことです。順番を持っている会社は、安全に、しかし着実に前に進みます。地図を持って歩き始めてください。

地図は一度描いたら終わりではありません。半年に一度、業務の配置を見直してください。今日は第4象限に見えた業務が、ルール整備とツールの進化で第2象限に降りてくることは十分にあります。地図を更新し続けるチームだけが、安全と活用の両方を長く保てます。

皆さんいかがでしたでしょうか。チームの現在地を知るには、15問の実装タイプ診断も役立つはずです。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 人事の仕事でChatGPTはどこから使い始めるべきですか?

個人情報を含まず定型度の高い業務からです。具体的には求人票のドラフト、社内規程のたたき台、研修資料の構成案、説明会の想定問答など。この領域は今日から始められ、リスクが低い割に時間削減の効果を実感しやすい「最初の一歩」に適しています。

Q. 候補者や従業員の個人情報をChatGPTに入力してもよいですか?

会社としてのルール整備が先です。無料版・個人アカウントでの入力は避け、入力データが学習に使われない法人向けプランや設定を利用し、氏名などをマスキングする運用を決めてから扱うべきです。個人の判断で入力を始めるのが最も危険なパターンです。

Q. 人事業務でAIに任せてはいけないことは何ですか?

採用の合否、評価、懲戒、解雇など、人の処遇に関わる最終判断です。これらは説明責任を伴う意思決定であり、AIは情報の整理までに限定すべきです。また労務相談など感情を受け止める場面の一次対応も、AIに置き換えると信頼を損ないやすい領域です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の数値・効果等は独自ガイドの目安値であり、企業・運用により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全12ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。

自社のAI実装、いまどの段階ですか。

15問・約5分の「人事AI実装タイプ診断」で、あなたのチームの現在地と次の一手が見えます。より具体的に相談したい方は、無料相談もご利用ください。

適性診断をやってみる → 無料相談をする →

あわせて読む